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2008.09.08

カメラアイ ⑨経験則

◎カメラアイ⑨ 経験則

 編集局から原稿用紙の束が消えたのに続き、暗室の使用頻度も激減した。記者はノートパソコンで原稿を作成し、カメラマンは現像処理が不要なデジタルカメラを使う。ITは報道の七つ道具を驚異的に変えた。
 1955(昭和30)年に刊行された「毎日新聞の24時間」(鱒書房)に、当時の写真部長の興味深い一文が載っている。【新聞記者のかけだしは、昔もいまも、いわゆる『サツ回り』からはじまるが、カメラマンのかけだしは、ひと昔まえは『ボンたき』からはじまった。先輩のカメラマンが「ヨシ」とかけ声をかけると、カン髪をいれず、右手にかかげたマグネシュームを「ぼん」とたくのである】
 ストロボがなく、二人三脚で写真を撮る時代があったのかと思うと、まさに隔世の感である。
 デジタルカメラが写真部に導入されてから10年になる。今やすっかりデジカメ取材になった。便利になった分だけカメラマンの負担は増した、というのが彼の実感だ。
 銀塩のフィルム時代は現像処理をしなければならなかったので、急ぎの場合は現場から撮影済みのフィルムをオートバイやタクシー便で本社に送っていた。写真部では暗室当番が次々と届くフィルムを現像しては、デスクが選んだコマを印画紙に焼き付けた。手際がよくて、焼き付けのうまい《暗室の神様》がいたものだ。
 今は現場で、カメラマンが撮影した画像の入ったメモリーカードをノートパソコンに差し込むことから始まる。ディスプレイ上で自らコマを選び、写真説明を打ち込んでから、携帯電話などを使って本社のサーバに送信すればよい。
 確かに便利になった。だがフィルム時代とちがって、ノートパソコンとその電源を含めて機材の重量は驚くほど増した。ざっと20キロのカメラバッグを担いで現場に行くのだから、なにより体力がいる。デスクの指示で、撮影と送信を繰り返すことも少なからずある。
 デスク決まって言う。「迷ったときは、しんどいほうを選ぶんだ」
 脚立を持っていくかどうか、望遠レンズは、雨具は、予備バッテリーは……これでいいだろうか。迷いは現場でもつきまとう。まだ取材を続けるべきか、念のために反対側に回ってみようか……。こんなときデスクの声が頭のなかで響く。「撮影に失敗したときやライバル紙に抜かれたときの後悔は格段に重いんやからな」
 だから、しんどい選択をせよ――IT時代の若き後輩に贈る、デスクの経験則だった。
(記者たちの体験談をもとに構成。「カメラアイ」は今回で終わり、次回からは「人物編」とし往時を振り返ります。15日にアップ予定)

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